東からやってくるはずだった雨雲は南海上を進み、天気予報はハズレて爽快な空が待っていた。富士山も裾野を思う存分広げて、ゆったりとした姿。
登山口は、御殿場口新五合目。標高は1440m。
山頂を目指すトレイルランナー、そして御来光を見て下山してきたと思われるハイカーも多い。
でも、ボクらは下山ハイカーのアリん子のような列を遠く見ながら、静かな双子山を目指す。
砂礫のトレイルはズルズルと滑り思うように進まない。次第に斜度はキツくなり、トレッキングポールを使って、体力と足力を温存しながら、ゆっくりと進んでいく。
途中、トレイル(登山道)脇には、富士山五合目付近特有の赤いイタドリ=名月草が群落をつくっていた。無機質な砂礫の世界に潤いを、思うように進まない登りに意欲を与えてくれる。
下ばかりを見て歩いてしまいがちだけれど、立ち止まって顔を上げれば、空には風の筆で描かれた雲が舞う。
振り返れば、丹沢や箱根、山中湖の姿を見られる。霧に包まれることが多いこのトレイルも、運よく晴れれば、1時間も登れば、来てよかったと思える風景が広がる。
そして、ようやく双子山の鞍部。遠くに沸き立つ積乱雲が、夏を感じさせる。
双子山はその名の通りに、二つの小高い山からなる。下双子山からの景色がよいのだけれど、いきなりの長い登りにヘコたれた皆さんは「もう、登りたくない・・・」という表情だったので、直進。比較的なフラットな道になり、笑顔も多くなる。
御殿庭下付近でランチを済ませ、須山口登山歩道を下る。
砂礫のトレイルは低いカラマツの森、そしてカラマツの背は次第に高くなり、トウヒやモミ、そしてダケカンバが混生する、美しい森の風景に包まれていく。
途中、ぽっかりと森に口を開けた陽光が届く場所には、アキノキリンソウ等の花が咲き、もしかしたら! と思うとすぐにアキノキリンソウの蜜を吸う蝶アサギマダラが群れをなして飛んでいた。
アサギマダラは東北から沖縄、台湾まで旅する蝶。いろいろな山で見かけるのだけれども、いつ、どこで見ても、旅の途中という物語を感じて、ワクワクする。
森はさらに深くなり、射し込む光が、行き過ぎる者に語りかけてくる。
「前だけ見てたら、見逃すものも、多いんだよ」
そして水ヶ塚。ゴール。
「登っているときには、まだか、まだかと思っていたけれど、もう終わると思うとなんだかちょっと淋しい気分」
「砂礫の道と森の道。両極端の風景のなかを歩けて、キモチがよかった」
途中、別々に出会った地元のハイカーさん、ふたりが口を揃えて、こうボクらに話しかけてきたのが印象に残った。
「いい森でしょう?」
確かに、いい森。美しい森。キモチよい森。
多くのハイカーは富士山山頂を目指すけれども、
その足元に、地元のヒトが愛する、いい森がある。
双子山ハイク、贅沢な風景のなかを歩けたいい時間でした。